2022/08/08

Mobile Fidelity のOriginal Master Recording レコードはデジタルコピーからカットされた!? ー MoFi Gateとその顛末


7月半ば、2015年以降に発売されたMobile Fidelity Sound Lab 社(MoFiと略)のOriginal Master Recordingシリーズのアナログ盤レコードは、実際には制作過程でデジタル加工されていたと欧米のオーディオ・マニア、レコード・マニアがネットで大炎上しました。



その始まりはこのYouTube 動画。アメリカ、アリゾナ州でレコード店を営み、ネット上のインフルエンサーでもあるMike Esposito氏のYouTube チャンネル「THE `IN`GOOVE」で氏が、信頼できるソースから得た情報として、モービル・フィデリティー社のオリジナル・マスター・レコーディングのレコードは2015年以降デジタル加工されていたと発信。これに対し、否定、同調、MoFi 社への非難、Esposito氏への非難/支持とオーディオ批評家、オーディオ機器メーカの創業者なども巻き込んで大いに炎上。



数日後、MoFiはMike Esposito氏をカリフォルニア州にある本社に呼び、マスタリング・エンジニア3名とインタービューを実施。そこでエンジニアたちが、同社が「ULTRADISC One-Step」の商品名で売られているレコードを含め大部分のレコードはオリジナルかそれに準じたマスターテープをDSDファイルのコピーし、そのファイルからカッティグしていると率直に認めた。彼らは、オリジナルマスターテープと言っても一つでは無く、技術的な問題があることが多く、DSDにコピーすることが音質的にもベストである場合が多いと言った。長いインタビューですが、カッティングに関しては何度もテストプレスをして試行錯誤を重ね最も音の良いラッカー盤を選んでそれを使ってレコードを製造するとも述べている。



インタービューの後、Esposito氏は後日談を投稿、レコード生産の過程を説明しながら、確かに多くの枚数をオリジナルのマスターテープからカッティングするためには、一本のマスター・アナログ・テープから行うことはそれを劣化らせるという観点からも現実的ではなく、よく考えてみるとMoFiは技術的には妥当な判断をした。最終的にはどのように作られたかではなく、聞いて音で判断すべきと括った。また、MoFiは発売された全てのレコードの音源ソース、何を音源としてカッティングしたか調べ順次同社サイトに掲載していくと約束したと述べた。 実際にMoFi社はそれをおこなっています。 その一例はこちら:https://mofi.com/collections/vinyl/products/michael-jackson-thriller-ultradisc-one-step-33rpm


この一連の出来事をフォローして、まず頭に浮かんだのは、柿崎景二著「デジタル・オーディオの全知識」に収録された著者(ソニー・ミュージックエンタテインメントで機器開発を手がけたレコーディング・スタジオのテクニカル・エンジニア)と大瀧詠一氏との「語り下ろし特別対談」。この対談には大滝氏の「A LONG VACATION 」の異なるプレス/リマスタリング盤がその時点で最も良い音のマスター音源(デジタル・コピーを含む)を探してためオリジナルマスターテープとは異なる音源を用いて製作されいったという事、音の良さを求め異なるデジタルフォーマット、機器を使い分けていったかというような会話が収録されており、加えて『スタジオ機器と『A LONG VACATION』マスターの変遷』というコラムなど、上述のMoFiエンジニアたちが言っていることに相通じるところがあったからです。

ちなみに、この一件の顛末は2022年8月5日付でワシントンポスト紙にも書かれました:
https://www.washingtonpost.com/music/2022/08/05/mofi-records-analog-digital-scandal/ この記事にはMoFi現在の持ち主 Music Direct社 (オンラインオーディオ機器販売、https://www.musicdirect.com/)の社主 Jim Davis氏の談話も入っており、氏はMoFiが行なったインタービューは自分が許可したものではなく、間違いであったというようなことを言っています。

さまざまな組織の不祥事がマスコミを賑わすのが常となってきた近年、MoFiの対応は誤りを認めてそれを正す、誠実で勇気のあるものであり、個人としても見習う価値のあるものだと思いました。Esposito氏も、アナログ至上といった教義的なものではなく、現実的に柔軟にMoFiの対応を評価し、最終的にはレコードを聞いて音で判断すべきという大人の対応であったことも良かったと思います。

最近のMoFi盤ではJim Hall とBill Evansの「Undercurrent」を持っていますが、良い意味で現代的な音の良さで私の愛聴盤の一枚でもあります。予約したマイケル・ジャクソンのスリラーMoFi限定盤にはとても期待しており、DSD音源からカットされることが分かった今も当然ながらは予約のキャンセルはしません。



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