2022/08/26

Lou Donaldsonー Blue Note LPs


私の好きなジャズ・ミュージシャンの一人、アルトサックス奏者のルー・ドナルドソン。僕は彼の明るい楽観的なノリの演奏を聞くと気持ちが持ち上げられます。

デビュー当初はチャーリー・パーカー直系とまで言われるほどにパーカーの影響を強く受けたハード・バッパーだったルーのスタイルは時と共に変化していきますが、自らの個性とスタイルを確立した転機となったのが上の写真 真ん中の1958年の「Blues Walk」。大雑把にいうといわゆるモダン・ジャズの洗練さ・かっこよさを保ちつも、肩肘張った感じがなくノリのある程よい緩さで、聞いていてリラックし知らず知らずに手足がリズムに合わせてタッピングを始めているというのが僕にとってのこのアルバムです。

ドナルドソンの代表作としてよく挙げられる「Blues Walk」ですが、商業的にも成功し、彼はその後矢継ぎ早に多くのアルバムを発表していきます。私は「Blues Walk」以降、ルーが盲目のピアニスト、ハーマン・フォスター(Herman Foster)と組んで50年代終わりから60年代はじめの間に録音したアルバムが特に好きですが、「Light Foot」と「Gravy Train」だけで数は多くありません。

ルーは1963年にブルーノートを離れArgo, Cadetと渡り歩いだのち、1967年にブルーノートに戻り、今度はファンクを取り入れたスタイルでもう一つを代表作としてよく取り上げられる「Alligator Bogaloo」を発表。こちらも大ヒットし、オルガンを入れ、ファンク色を強めた演奏で70年までの間6枚のアルバムを出しています。80年代に入って再びHerman Fosterと組んだアルバムを数枚出していますが、これらはどちらかというとファンだから買って聴いたという感じでしょうか。

一時期は、Blue Note第一期時代のルーのLPを多くを持っていましたが、Blue Noteの録音技師 Rudy Van Gelder氏が自らリマスターした紙ジャケCDが出た時、それらに買い替えてLPは売ってしまいました(今となってはとても後悔しています)。日本に帰ってきて、初期プレスであってもオリジナル盤でなければ、適価で程度の良いLPを購入できることがわかったので、県外へ出る際、時間を見繕って中古レコード店に寄って少しづつLPを集め始めました。 上の写真は最近入手した3枚です。 我が家比では、稀に例外もあるものの、最近出ている『高音質盤LP』より、初期プレスの方がはっきりと聞き分けられる鮮度の高い音で音楽が聴けています。


2022/08/18

沖縄に戻ってきてから…

友人の撮影


10年住んだウィーンを離れ、沖縄に戻ってきてから、趣味の面で一番の変化は、コンサートに行く機会が極端に減ったことです。帰国後行ったコンサートはウィーンの音楽家の友人の来日コンサートと勤務先の大学で行われたコンサートと片手で数えられるだけです。

1987年以降、34年間海外で生活してきて身についたことの一つが、無い物ねだりをせずに行った先々の優れたものを楽しむということです。今回沖縄に戻り、海岸べりにある沖縄本島有数のリゾート地域でもある農村地区の恩納村にある勤務先の敷地内の宿舎に住むこととなったことは僥倖であると考え、俄かリゾートライフを楽しむことにしました。週末はスノーケリング、SUP、カヤックなどをやっています。海も珊瑚も一時期よりは綺麗さが戻ってい感じで少し安堵感もおぼえました。

仕事は出張も多く結構忙しく、またプライベートでも父が2月に他界したこと、母の病気で入院中であることもあって思うように時間が取れませんが、できるだけエンジョイしていくつもりです。 

というわけで、オーディオもぼちぼちと言った感じです。


友人の撮影

2022/08/08

Mobile Fidelity のOriginal Master Recording レコードはデジタルコピーからカットされた!? ー MoFi Gateとその顛末


7月半ば、2015年以降に発売されたMobile Fidelity Sound Lab 社(MoFiと略)のOriginal Master Recordingシリーズのアナログ盤レコードは、実際には制作過程でデジタル加工されていたと欧米のオーディオ・マニア、レコード・マニアがネットで大炎上しました。



その始まりはこのYouTube 動画。アメリカ、アリゾナ州でレコード店を営み、ネット上のインフルエンサーでもあるMike Esposito氏のYouTube チャンネル「THE `IN`GOOVE」で氏が、信頼できるソースから得た情報として、モービル・フィデリティー社のオリジナル・マスター・レコーディングのレコードは2015年以降デジタル加工されていたと発信。これに対し、否定、同調、MoFi 社への非難、Esposito氏への非難/支持とオーディオ批評家、オーディオ機器メーカの創業者なども巻き込んで大いに炎上。



数日後、MoFiはMike Esposito氏をカリフォルニア州にある本社に呼び、マスタリング・エンジニア3名とインタービューを実施。そこでエンジニアたちが、同社が「ULTRADISC One-Step」の商品名で売られているレコードを含め大部分のレコードはオリジナルかそれに準じたマスターテープをDSDファイルのコピーし、そのファイルからカッティグしていると率直に認めた。彼らは、オリジナルマスターテープと言っても一つでは無く、技術的な問題があることが多く、DSDにコピーすることが音質的にもベストである場合が多いと言った。長いインタビューですが、カッティングに関しては何度もテストプレスをして試行錯誤を重ね最も音の良いラッカー盤を選んでそれを使ってレコードを製造するとも述べている。



インタービューの後、Esposito氏は後日談を投稿、レコード生産の過程を説明しながら、確かに多くの枚数をオリジナルのマスターテープからカッティングするためには、一本のマスター・アナログ・テープから行うことはそれを劣化らせるという観点からも現実的ではなく、よく考えてみるとMoFiは技術的には妥当な判断をした。最終的にはどのように作られたかではなく、聞いて音で判断すべきと括った。また、MoFiは発売された全てのレコードの音源ソース、何を音源としてカッティングしたか調べ順次同社サイトに掲載していくと約束したと述べた。 実際にMoFi社はそれをおこなっています。 その一例はこちら:https://mofi.com/collections/vinyl/products/michael-jackson-thriller-ultradisc-one-step-33rpm


この一連の出来事をフォローして、まず頭に浮かんだのは、柿崎景二著「デジタル・オーディオの全知識」に収録された著者(ソニー・ミュージックエンタテインメントで機器開発を手がけたレコーディング・スタジオのテクニカル・エンジニア)と大瀧詠一氏との「語り下ろし特別対談」。この対談には大滝氏の「A LONG VACATION 」の異なるプレス/リマスタリング盤がその時点で最も良い音のマスター音源(デジタル・コピーを含む)を探してためオリジナルマスターテープとは異なる音源を用いて製作されいったという事、音の良さを求め異なるデジタルフォーマット、機器を使い分けていったかというような会話が収録されており、加えて『スタジオ機器と『A LONG VACATION』マスターの変遷』というコラムなど、上述のMoFiエンジニアたちが言っていることに相通じるところがあったからです。

ちなみに、この一件の顛末は2022年8月5日付でワシントンポスト紙にも書かれました:
https://www.washingtonpost.com/music/2022/08/05/mofi-records-analog-digital-scandal/ この記事にはMoFi現在の持ち主 Music Direct社 (オンラインオーディオ機器販売、https://www.musicdirect.com/)の社主 Jim Davis氏の談話も入っており、氏はMoFiが行なったインタービューは自分が許可したものではなく、間違いであったというようなことを言っています。

さまざまな組織の不祥事がマスコミを賑わすのが常となってきた近年、MoFiの対応は誤りを認めてそれを正す、誠実で勇気のあるものであり、個人としても見習う価値のあるものだと思いました。Esposito氏も、アナログ至上といった教義的なものではなく、現実的に柔軟にMoFiの対応を評価し、最終的にはレコードを聞いて音で判断すべきという大人の対応であったことも良かったと思います。

最近のMoFi盤ではJim Hall とBill Evansの「Undercurrent」を持っていますが、良い意味で現代的な音の良さで私の愛聴盤の一枚でもあります。予約したマイケル・ジャクソンのスリラーMoFi限定盤にはとても期待しており、DSD音源からカットされることが分かった今も当然ながらは予約のキャンセルはしません。