一時期、色んな音楽本を読み漁った頃がありました。当時はまだ音楽のストリーミングなどなく、インターネットも黎明期であったため、過去に出たアルバムなどに関する情報を得たり、新たな音楽のジャンルを開拓するには主に出版物が頼りでした。音楽本を読んで、頭の中で吟味し、レコード・CDを探して聴くというのが、音楽を聴く趣味を広げていった主な手段でした。もちろん、ラジオ・TVで聞いたり、友人から教えてもらったり、レコード店での試聴、雑誌・新聞の評論などもありましたが、歴史的・体系的にジャズやクラシックの知識を深められたのは音楽本のおかげでした。その頃はアメリカに住んでいたのですが、クラシックはまだしも、ジャズに関して初心者向けのそのような本は無く(音楽学研究者向けの専門書やミュージシャンの伝記などはありましたが)もっぱら一時帰国した際に色々と買って持ち帰って何度も何度も繰り返し読んで、脚繁くレコード屋に通っていました。
あれから30年以上経ち、簡単に情報を手に入れられるようになり、自分の経験値・知識量もだいぶ上がり、あまり音楽本を欲しなくなりましたが、たまたま新聞か何かで見かけて興味を持ち、購入したのがこの本。滋賀県に生まれ、沖縄で育ち、内地・海外で学ばれた後、沖縄に戻ってこられた榎本空氏が書かれた「音盤の来歴ー針を落とす日々」 (アマゾンアソシエイトリンク)です。 厳密にいうと音楽やレコードを解説したいわゆる音楽本ではありません。氏がアメリカに留学し帰国する人生の流れのなかでの経験や出来事とそこにあった・出逢った音楽(主にレコード)・ミュージシャンにまつわるエッセーを集めたものです。この本が私に刺さったのは音楽にまつわるように書かれ映し出されたアメリカの社会、歴史、氏の生き様が実は主役のメインテーマであるエッセーとそれを書いた氏のさりげないバイタリティ、暖かさ、希望であったと思います。出版社から音楽をテーマにと依頼され書き始めたという連載に新たな書き下ろしを加えたこの本は、途中から内容と文章トーンが変化します。本のあとがきによると、ガザの侵攻に心を痛めた榎本氏は暫く書けなったとのこと。それを乗り越えてからの文章がこの本の第2幕とも言えるのでしょう。
音楽の観点で言うと、この本で紹介された様々なレコード、ミュージシャンは私が今まで聴いてきた範囲のものとは全く異なっており、早速ストリーミングで聴いてみんな好きになり、特に気に入ったものは中古レコード店で探すレコードのリスト(物理的なものではなく頭の中にあるリスト)に追加され、見つけるたびに喜びを感じます。
音楽ファンのみならず多くの方にお勧めしたい一冊です。

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